わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

【漫画版ツイステ】伊勢海老監督生こと円満雄剣はいいぞ。と「ゲームが漫画になる」面白さ

 以前も書いたが、スマホゲーをあまりやらない自分にしては珍しく、ディズニーの人気ゲーム『ツイステッドワンダーランド』にハマっている。

 ゲーム共々ハマっているのが、「月刊Gファンタジー」で連載中のコミカライズ版だ。先月単行本1巻が発売されたため、そのレビューを書こうと思う。

 

 さて、プレイヤーの皆様ならご存知のことだが、ツイステの主人公「監督生」は姿が描かれない。性別も曖昧にされている。名前もデフォルトは「ユウ」だが、変更可能だ。

 なので、ファンアートでは男子に描かれることもあれば、女子に描かれることもある(男子校が舞台のため、後者では男装している設定も多い)。どちらともとれるように中性的な見た目だったりもする。

 

 しかし漫画という媒体になる以上、主人公の姿を描かないわけにはいかない。

 果たして、コミカライズの監督生はいったいどのような人物なのか……答えはガタイのいい剣道男子だった。

 

 ……え?

 

 ガタイのいい剣道男子だったのである。

 

 えっ……!?

 

 かくして、コミカライズ版監督生・円満雄剣は、ゲーム内の監督生にフロイドがつけたあだ名「小エビちゃん」にちなみ、ファンから「伊勢海老監督生」「伊勢海老くん」「伊勢海老の兄貴」と呼ばれるようになったのだった……

 

※というわけで1巻収録分のネタバレあります(未収録の内容は書いてません)

 

 

 明日の大会に向けて、剣道部の仲間達と練習に励んでいる円満くん。一生懸命な後輩に「明日、必ず勝とう!」と声をかける。あれ??青春剣道漫画か??

 ……と思っていたところに黒い馬車が現れ、円満くんは無事ゲーム通りに異世界トリップして魔法の学校・ナイトレイブンカレッジにやってくるのだった。よかったよかった(よくはないが)。

 

 ちなみに彼は作中で「ユウ」と呼ばれているが、当ブログではゲームの監督生との区別のため「円満くん」と呼ばせていただく。

 

 第1巻での彼の注目点は、強すぎてもはやギャグの域の精神力、そして剣道部副主将という背景が、ちゃんとグリム・エーデュースとの関わりに活かされていることだ。

 

 夜中に海に囲まれた島で「地道に聞き込みをすれば帰れるヒントが見つかるかもしれない」とズンズン進んで学園長を驚かせる円満くん。学園長が優しい教育者の鑑じゃなかったらどうなっていたことか。

 オンボロ寮へ案内されるが、そこのゴーストに脅かされるも「すごいな!この世界は霊感がなくても幽霊が見えるのか!これからよろしく頼む!」と目を輝かせて受け入れる円満くん。ゴースト「もう驚かないの…?」

 もうこの二つだけで、ある日突然異世界に来ちゃっていったいどうなっちゃうの〜!?的境遇の高校生にしては、あまりに肝が座っているのがわかる……もしかすると天然なのかもしれないが。

 

 腕力も相当あるようで、まくった腕はたくましいし、デュースを「ひょい」と軽々っ!な擬音で抱えて運んでいる。なおデュースの身長は173cm。これはデュが身長の割に軽いのか円満くんの腕力がヤバいのかどっちなんだ(たぶん後者)

 このへんの二人は、いい意味で兄貴と舎弟っぽい。多分コミカライズのデュースは百話目くらいで「わかったよユウッ!ユウの覚悟が『言葉』じゃなく『心』で理解できた!!」ってゆってると思う。それはサムさんだろ

 

 そんな円満くん伝説の集大成のシーンが、炎を吐いて暴れようとしたとはいえ、仮にもツイステのマスコットキャラ・グリムを剣道の要領でデッキブラシを使い制圧してしまうところだろう。

 しかしそこから、彼の優しさによってグリムとの友情が生まれ始める。大魔法士になるため、絶対にNRCに入るのをあきらめないと語るグリムに、円満くんは体が弱くてもがんばっていた剣道部の後輩・小絲を重ね、「お前にも譲れない夢があるんだな」と理解を示す。

 

 そして、ドワーフ鉱山でエース・デュース・グリムが協力してモンスターを止める作戦を考えるのはゲーム通りだが、円満くんは「個人戦では勝てない相手でも、団体戦なら結果が変わることがある」と剣道の経験をもとにアドバイスしている。

 コミカライズ独自の「剣道部副主将」の設定が、ちゃんと原作キャラクターとのドラマにつながっているのだ。

 

 ゲームの監督生が個々のプレイヤーに解釈・想像を委ねる主人公キャラクターであるのに対し、円満雄剣は「コミカライズ版の主人公はこういう背景と性格を持っている」と明確にされている。

 そのため、「すでに知っているストーリー」で「おおむね知っている行動を取る」にも関わらず新鮮さを味わうことができるし、「次回の彼はあのシーンであのキャラとどんな会話をするのか」と楽しみになる。

 それこそがコミカライズ版ツイステの最大の面白さで、メインストーリーを最後まで(原作の方もまだ終わってないが…)漫画化してほしいと願う原動力になってくれている。

 

 あとたまにメジェドみたいな顔してるのが好きです。

 

 などと書いてきたが、コミカライズ版の魅力は円満くんだけではない。

 

 ゲームのプロローグに相当するストーリーが、第一章の直接的な布石となっていることもあり、リドル・ローズハート(推し)の出番が増えている。

 第一話において、登場からずっと式典服のフードで隠されていた彼のご尊顔が、円満くんに身を挺して守られた時はちゃめちゃに麗しい作画で初めて描かれるのだ。

 

 えっ……美少女……!?(※男子です)

 

 しかしやはりオバブロ前の我らが寮長、「大丈夫……か?誰に向かって言っておいでだい!?」同一人物とは思えないすさまじい形相で激怒。

 

 なお、コミカライズのリドルはドワーフ鉱山にエーデュースを迎えにやってくる。見開きで夜空の下、寮服姿で立っているシーンはかっこいいの一言。マントがよく映える。

 ハートの女王の石像に火をつけてしまったので罰しに来た…わけではなく、女王の法律のハリネズミがくしゃみをした日はトランプ兵が揃って歌を披露せねばならない」に違反したので罰しに来たのだ。

 ハリネズミがくしゃみ??このシーンは、登場人物の真剣な表情とカワイイが意味がわからないセリフのミスマッチ感が最高にシュールなので、是非見てほしい。

 女王の兵隊らしいトレイ先輩とケイト先輩のクールなカットにも注目するように。あと、ネットでコミカライズの二人はブラック企業の社員みたいと書かれていたのが忘れられない。

 

 細かいところだと、一〜二話に登場するリドル以外の寮長達の描写も好きなポイント。

 怪しげな解説役が似合いすぎるアズールをはじめ、今はただ「後々絡んできそうな強キャラ」オーラを漂わせるだけの彼らが、少ない出番とセリフでちゃんとキャラクターを表現されている(まあイデアはリモート参加だしマレウスはいないのだが…)。一人だけ柵にもたれてるカリムがカワイイ。

 

 

 そして、やはり漫画ならではの描写が良い。ゲームを「そのまま」漫画にすることはしない。それぞれ好みはあると思うが、「漫画には漫画の見せ方がある」と理解している人が創ってるのが伝わってくる所に、私は非常に好感を持っている。

 これは先述の円満くんとかリドルの出番増加とは少し方向性が違っていて、単に原作にないオリジナル要素をつけることだけではなく、「作品を別の媒体でも面白いと思わせるには、テクニックも必要」という話だ。

 

 例えば「日本へ帰ろうと入学式を飛び出すが、見開きで描かれる夜の学園遠景と海、そしてホウキで飛んでいるモブキャラと校舎を見上げて、魔法のある異世界に来たことを改めて理解する円満」のシーン。

 ようやく出口に着いたのに、外を見ても全く知らない場所が広がるだけで、周りは海という絶望感。扉を開け放った勢いを表す、ページをまたいで大きく書かれた擬音との落差が、もはやどうしようもできない状況と実感させる。

 さらに、「魔法を使える異世界の人間」のこの上なくわかりやすい例として、ホウキで飛ぶ人々が現れる(ここで登場するのがモブなのは説明として正解。この学園内で「ホウキに乗って空を飛べること」は特別でも何でもないからだ)。

 大コマで円満くんが見上げる校舎は途方も無い高さまでのびているように見え、読者にも改めて「剣道部で青春やってたのに、とんでもないことになっちまった……」と思わせに来るのだ。

 

 ……と、私の説明が下手で申し訳ないが、とにかく漫画における表現で読者に伝えたいことを伝えるのが上手いコミカライズだとわかってもらえたら嬉しい。

 

 「ゲームの画面」と「漫画のコマ」は違う。縦に長いコマと横に長いコマ、大きいコマに小さいコマ、時には見開きで二ページぶち抜いて同じ場面を描いてみたり。

 コマ内の全てのキャラを思いきり小さく描いてもいいし、顔・体の一部をアップにしてもいい。同じ場所で同じキャラがずっと会話しているだけで数ページ使う時も、コマによって角度や構図を変えていい。

 手書きの擬音だって、何を表す音なのか読者に伝わりさえすれば、どう書いても自由だ。173cm男子を抱える時の音を軽そうに書いてみるとか(しつこい)

 自由だからこそ、場面によって使いこなすのが難しいのだろうが、自分はツイステのコミカライズはこれらをクリアしている印象だ。

 

 入学式で教会にありそうな長椅子が並んでいたことがわかったり…一ページで色々な角度から学園構内の同じ場所が描かれるが、どの角度から見ても荘厳だったり…デフォルメ顔がコミカルで可愛かったり…リドルの瞳と長いまつ毛と少し色のついた唇のアップの美しさだったり…推しの顔面自慢が入ったのは気にするな

 

 それと、「ホウキに乗って飛んでいるモブキャラを見せることによる世界観説明」のような、ゲームの背景と立ち絵では表現が難しい部分の補完。特に見応えを感じたのが、「魔法を使った戦い」の描き方だ。

 ファンタジー漫画らしいエースの風の魔法とグリムの吹く火の魔法、デュースの見事な蹴り(ケンカで鍛えたのか?)、黒いインクを垂らしながら襲いかかってくる怪物のおどろおどろしさに、格上の魔法士であることを1巻本編の最終ページまで印象付けてくるリドル。

 このあたりにしっかりと迫力を感じられるので、「魔法を使って戦うゲームのコミカライズ」としての説得力が大きい。挙げた中に別に魔法ではない蹴りが混ざってたのは気にするな

 

 あと、「ざけんな…目の前に魔法石があるのに帰れるかよ!!」の時に洞窟の岩壁をヒビが入るほどぶん殴るデュースとか。圧倒的元ヤン、すき……!

 ドワーフ炭鉱の家のちっちゃいおいすでふんぞりかえってるグリムも好きです。キャラが座ってる姿はなかなかグルーヴィー絵以外で見られないですからね。

 

 

 2巻収録分も漫画ならではの見所がたくさんあるので、単行本派の方は楽しみにして頂きたい。

 なお、このコミカライズを読むにあたって事前知識は必須ではない。「面白くて絵が綺麗な人気ゲームのコミカライズ」としてだけではなく、「面白くて絵が綺麗な学園ファンタジー漫画」としてももちろん読めるので、ゲームを未プレイでも気になる人は読んでみてほしい。