わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

【アニメ版マギ】アニオリ大好き異端オタク、9年越しにアリババの堕転を語る

 未だに言いにくいことではあるが、私は放送当時からアニメ版『マギ』第一期の終盤で、もう一人の主人公・アリババが堕転(いわゆる闇堕ち)するオリジナル展開が好きだ。

 だって、自分の性癖を自分の性癖でぎとぎとにコーディングされた上から、さらに自分の性癖でごてごてにトッピングされた料理が自分の性癖の皿に乗って出てきたら、他の人がどんなに嫌な顔をしようが自分だけは笑顔になっちゃうじゃないですか。

 ごめんなさい。この記事を書くのはそういう奴なんです。あきらめてください。

 そしてお恥ずかしながら、未だに原作を二期最終回から二巻分くらい後までしか履修できていないので、ツッコミ所は生温かく見逃してほしい。

 

 放送終了からそう月日の経たないうちに、「アリババくんの堕転について、180字でなく長文で書きたい」とツイートしていた気がする。しかし、その後も「いつか書く」と繰り返しつつ結局書かないまま、『マギ』アニメ化10周年のアニバーサリーイヤーとなってしまった。

 

 あ、ちなみに堕転のくだりが放送されたのは2013年なので、記事タイトルの通りアニメ版アリババくん堕転からは9周年のアニバーサリーイヤーである。

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これは二期OP

 

 アニメ化10周年だけではなく、

・原作者・大高忍先生の最新作『オリエント』のアニメ化

・日5枠の復活

と他にもマギ関連の話題が多い2022年。

 もしや……ガイアが私に「いい加減アリババの堕転を語れ」とささやいている……?そうかな…そうかも…

 

 非常に興味深いのは、「重要人物がアニオリで闇堕ちをする」衝撃的な展開でありながら、全く原作にないストーリーを創っているとは言い難いことだ。

 

 アリババが敵組織アル・サーメンのイスナーンから堕転の呪いをかけられるのは、原作通りだったりする。

 ただし、原作のアリババはこの呪いに苦しめられるも、堕転することなくアラジンの「ソロモンの知恵」で救われている。

 原作では迷宮ザガンを攻略し、シンドリアを襲った黒い金属器使いとの戦いも終えた後のエピソードだ。

 

 言ってしまえば、堕転自体は「もしも、この時本当にアリババが堕転していたら?」というIF。

 しかし、最終話前後にこのエピソードを持ってきて、ソロモンの知恵を妨げられてアリババが堕転してしまい…ともできるところを、そうしない。

 どうすれば、「アラジンに王の器を見出された、心優しく正義感の強い少年・アリババ」の、原作にない闇堕ちに説得力を持たせられるのか?

 恐らく、18話以降はそれを逆算して考えられたのだろう。

 

 バルバッドの戦いが終わってから起きたことの描写、順番、要因、アリババはそれをどう受け止めたのか。それらを原作から少しずつずらしていく。

 煌帝国に支配された祖国。その煌の皇子・白龍との関わり。偽ザガンの人間への仕打ち。戦いの反動を負うモルジアナ。交戦したドゥニヤの境遇との共通性。アル・サーメンに襲撃されるシンドリア国。自分と同時に堕転の呪いをかけられたシンドバッド。片腕を失う白龍。

 一つ一つは原作にもあったイベントなのに、アレンジによって六話分もかけて、着実にアリババの心を追いこむように作用していく。そして、積み重なったそれらは「アリババの堕転」というアニメだけの展開へと結実する。

 

 原作においては、バルバッド編から半年後に飛び、あの直後に煌帝国の大群がバルバッドに現れ、アラジン達はシンドリアに匿われており、当初は落ち込んでいたが元気を取り戻してきた(そしてプクプクに太った)と、事後説明がなされた。

 だがアニメでは、アリババがバルバッドの再建に尽力していたところへ煌が迫り、抵抗しようとするもシンドリアに逃がされ、無力感と悔しさに打ちひしがれる姿が克明に描かれる(そしてその直前からイスナーンに侵入されていた)。

 

 その後、原作とはイベントの順番が入れ替えられ、迷宮ザガンの攻略にもアル・サーメンの刺客との戦いにも、堕転の呪いが大きく関わることとなる。

 独り気負っている白龍に対し、原作ではバルバッド編で一歩成長したアリババが過去の自分を重ねていく筋だったが、アニメではアリババ自身も、イスナーンから白龍への憎しみを煽られたことに悩みながら向き合っていく。

 もちろん、最終的に二人は原作通り和解できる。

 しかし、次はドゥニヤがカシムを喪ったトラウマを刺激してくる上、シンドリア国が危機に陥る。

 原作では迷宮を出て初めて襲撃を受けているのを知ったが、アニメではイスナーンが戦闘中にそのことを教え、「君達と関わったせい」とうそぶく。

 「仲間や罪のない人々を傷つけられる怒りと悲しみ」を、優しさと正義感を持っているが故の心の傷を的確に突いてくるのだ。

 共に迷宮ザガンへ入る刺客にドゥニヤが選ばれたのも、アニメ版ではアリババと近い境遇を利用し、堕転へ導く狙いがイスナーンにあったからではないかと思えてくる。

 

 実際、ドゥニヤ・イサアク戦を原作と見比べると、白龍の腕がこの戦いで失われたこともあるが、アニメ版アリババに精神的な余裕が無くなってきているのが顕著だ。

原作:

俺は…カシムみたいな人達を助けるために、アル・サーメンと戦うって思ってたけど……

もし、こいつらもカシムと同じような何か利用されてる奴らだったとしたら……!?

どうすりゃいいんだ……俺はこいつらのこと何も知らねーのに……

 

アニメ:

やめてくれよ!俺達をさんざん痛めつけて、白龍の腕まで奪って、なのに…!敵なら敵らしくしてくれよ!!

……カシムと同じように利用されてるだけとか……、そんなの……!

 原作のアリババは、ドゥニヤ達のカシムと通じる悲劇的な背景を受け止めた上で、なら自分はどうすればいいのかと困惑している。

 アニメでは、敵対し戦い仲間を傷つけた相手にも、そのような背景があったというジレンマを受け止められなくなるほど消耗しているのだ。

 もうこれ以上辛いことを考えたくないのが心の防衛本能というもの。敵に共感や同情をしてしまうのが辛いからこそ、拒絶しあくまで敵として剣を向けようとした。だが、やはりアリババにはできなかった。

 

 しかしそこにダメ押しで、国も大切な人も奪われた自身の運命を呪い、アル・サーメンに下ったドゥニヤの記憶に、アリババのバルバッドでの記憶が重なってしまう。

 そしてダメ押しのダメ押し、言わば最後の仕上げとしてアリババの負の感情の矛先を一手に担い、自身に剣を刺せと迫るイスナーン。

そう!そうだいいぞアリババ王!恨め、憎め、全ての元凶は私だよ!

私がいたから君の祖国は燃え、親友は死に、今また身を寄せた国も戦乱に巻きこまれた!

君がザガンに来ることになった原因も私だよ。私の呪詛が君をここに導いた。

そのせいでファナリスの少女は魔力を使い果たして瀕死となり、煌の皇子は左腕を失った!

君がその剣を手に入れたアモン。あの町の領主を迷宮へと導いたのも私だ。

わかったかい?私が、私こそが君の運命そのものなのだよ!!

 

 ……ここまで書いてきて、本当にアニメ版イスナーンのアリババ闇堕ちへの情熱がすごい。こんなメッチャお膳立てしまくって原作に無い闇堕ちさせる人なかなかいないですよ。なんかもう闇堕ち二次創作界隈のトップランカーとお呼びしたい。

 

 改めてふり返ってみると、マジで迷宮へ旅立ってから精神的に休む暇があまりない構成になっているんだなあ…と。

 憶測だが、兄王との再会*1やアモンとの対話が削られたのは、尺の都合やストーリーのテンポ重視だけが理由ではなく、アリババのメンタルが回復する隙はできるだけ作らないためでもあったのかもしれない。

 

 さて、こうしたアレンジの積み重ねがついに「アリババの堕転」を引き寄せてしまい、突入した最終回。

 まず、魔力が回復するや否や駆けつけて「そんなまやかしに囚われるなんて、アリババさんらしくありません!力づくでも、いつものあなたに元に戻してみせます!!」と立ち向かうモルさんがイケメンすぎる……。

 

 ソロモンの知恵でアリババの心に入ったアラジンは、彼に語りかけ勇気づける形で、これまでの物語を総括する。

 辛いことも悲しいこともあったけれど、何度でも立ち上がり、関わった人々に前を向かせてきた。その戦いこそがアリババくんの運命だと。

 

 イスナーンは、消えて欲しければ自分に剣を突き刺せと再び告げる。アラジン曰く、アリババが望めばイスナーンを完全に消滅させることもできた。

 だが、アリババはそうではなく、「もう憎みたくない」という答えを示す。

 アリババが「間違うことすら運命だって言うのなら、俺はもう…」と言った時、アラジンは「それは、本当に君の心の言葉かい?」と聞いた。最後にイスナーンに示したものこそが、アリババの本心だったのだ。

 

 いかにイスナーンが事態を操りアリババの心を惑わせても、そこに流れる揺るぎないものまでは思い通りにできなかった。

 アラジンとアリババの友情。二人が、モルジアナをはじめとする仲間達と経験してきたこと。苦しみと同じくらい、彼らは希望を積み重ねてきた。

 これらがアニメ版の物語にもしっかり存在していた以上、アリババを完全な闇堕ちに至らしめ、バッドエンドにすることは不可能だったのである。

 

 原作のシンドリア・ザガン攻略編と並行して、アリババの堕転というもう一つの縦軸を描き(その解決は、序盤から暗躍してきたイスナーンとの決着でもある)、危機を乗り越えて今一度二人の主人公の絆で締める。

 

 第1話のサブタイトルは「アラジンとアリババ」、最終話は「アリババとアラジン」。

 さっき「第18話以降は~」と書いたが、原作の初回エピソードの内容を削ってまで二人の出会いを第1話に持ってきたのも、全てこのためだったのではないか?という気もしてくる。

 

 シンドリア勢も、シンドバッドは言わずもがな、八人将はこの時点では出番の少なかったメンバーまで見せ場を用意され、紅玉も力を貸す大盤振る舞い展開で、ラストにふさわしい盛り上がりを見せた。

 そして、二期への布石を打ちながら、第一期は終わる。あれ?待って?もしかして、最高なのでは?

 

 

 ……9年経っても、アリババが堕転し戻ってくるアニオリを好きで居続けた人間が存在することも、それがよりによって自分なのも、運命だってことか?

 時に、他人の厳しい評価を目にしても運命を呪わず、自分を信じろってことなのか?ワァ……運命くん、スパルタすぎるな?

(そんな運命の中で、今年に入ってから電車が動かなくて仕事の行き帰りもままならない日が多過ぎて、それに気力を吸い取られてなかなか更新できませんが、たつこも戦っていくょ…。)

 

*1:後の二期で、彼らと再会するのをモルジアナ一人に変更した上でアニメ化されている