わくわく公式派生作オタク

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【小説版ツイステ】ねじれた世界で黒木優也がたどる、成長型主人公のねじれた王道

 ああーーやめたい……。

 対人関係に苦手意識があって突然放られた状況への苦悩の描写が生々しい好きなジャンルの小説版のオリジナル主人公に異様に入れ込む癖をやめたい……。

 

優也はオレなんだーー!!オレだーーー!!ヴェネツィアの運河を泳ぎながら)

 はい。

監督生なんだから100%のオリジナルキャラではないだろ!そうだね……。

 

 こんな導入になりましたが、この記事ではノベライズ版の監督生・黒木優也くんの苦労よりも成長を追っていきます。

 

※この記事にはノベライズ版(プロローグ〜第1章)の内容のネタバレが含まれています。

 

 コミカライズの伊勢海老の兄貴円満雄剣に続き、「我々公式サイドは媒体ごとに監督生像を好きなように描いていくから、みんなもそれぞれ好きなように監督生像を持ってくれよな!!」と言ってくれてるようで、実に有難いし楽しい。

hijikidays2.hatenablog.com

 

 夜中に海に囲まれた島で「地道に聞き込みをすれば帰れるヒントが見つかるかもしれない」とズンズン進んで学園長を驚かせる円満くん。学園長が優しい教育者の鑑じゃなかったらどうなっていたことか。

 オンボロ寮へ案内されるが、そこのゴーストに脅かされるも「すごいな!この世界は霊感がなくても幽霊が見えるのか!これからよろしく頼む!」と目を輝かせて受け入れる円満くん。

 

 もうこの二つだけで、ある日突然異世界に来ちゃっていったいどうなっちゃうの〜!?的境遇の高校生にしては、あまりに肝が座っているのがわかる……もしかすると天然なのかもしれないが。

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 反対に優也は、いきなり知らない場所に来てしまって慌てふためいたり(そりゃそうだろ)、家に帰れなくなって不安になったり(そりゃそうだろ!おい!)、等身大の少年だと思う。

 そんな彼の個性的な点は、喧嘩・揉め事が大の苦手なことだ。

 それだけなら珍しくないが、喧嘩を恐れるあまり友達も一人も作っていない。過去に対人関係で嫌な出来事があって〜なんて話は、今の時点では特に語られないのだが……もしかしたら、本当にただそういう主義ってだけかもしれない。

 

 だからこそ、グリムと協力してパートナーになり、エース・デュースとも距離が近づいていく描写は印象に残り、自分のことのように嬉しくなる。

 他の生徒達の色眼鏡に晒されて優也はストレスを感じるが、デュースが「僕は気にしない」と隣に座ってくれる。エースも「オレは陰口とかダッセー真似ごめんだから」と座ってくれる。

 エーデュースがオンボロ寮に泊まる夜は、みんなで同じ部屋に横になり雑談する、いかにも高校生のお泊まり会らしい様子が微笑ましい。

 本人達が素直に肯定するかは別として、実際優也も「友達と呼んで良いのかはわからない」と思ってはいるが、傍から見れば間違いなく「友達」と呼べる存在が増えていく。

 

 特に、「1章メインキャラの中で、優也みたいなタイプと一番相性悪そう」(※イメージ)なエースだからこそ、優也との関係構築が光る。光りまくっている。

 

 出会った当初、気さくないい人に見えたのに一転して馬鹿にされて以来、優也はまたエースに同じ態度をとられるのを恐れる(ワイも同じ立場だったらそうなると思うわ)(気にしないゲーム版とコミカライズ版の監督生がメンタル強過ぎる)。

 しかし、エースは優也の事情を知らずに酷いことを言ったかもと認め、謝罪する。からかったのも、実力で入学した自分達と違い、魔力が無いのに無理やり学園に居座ったと誤解して腹を立てたのが理由とされている。

 …もっとも、謝罪はオンボロ寮に泊めてもらうためでもあるのだが、そんなところも彼らしい。

 

 というか宿泊を頼みこむシーンのエースは、「どうすれば自分が一番可哀想に見えるかを知っている者の仕草」「あざといが、それさえも許してやりたくなる」ととにかく形容がカワイイの極みである。

 もしかすると……私が知らなかっただけでエースはアイドルなのかもしれないですね……。

 

 なんでもない日のパーティーの時、表立ってエースの味方につく勇気が出なかった優也は、リドルが間違っているとわかっていながら止められないトレイを非難するエースを見て、自分が情けなくなり心情を打ち明けて謝罪する。

 だが、当のエースは「いつでも絶対オレの味方をしろなんて頼んでない」「お前が人と揉めたくないのだって、一つの選択なんだから好きにすればいい」と否定どころか肯定した。

 そう、エースは時折優也の態度にイラだっていたが、それは「言いたいことがあるのにはっきり言わないから」なのであって、考え方自体は尊重してくれるのだ。ゥヮーーッ!!エース、すき〜〜!!

 

 デュースもまた、エースの味方に立てたのは、「悪いことを悪いとはっきり伝えるのも優等生」と言ってくれたおかげだと話す。

 自分がデュースの背中を押していたとはそれまで考えもせず、優也は恐れ多さと共に嬉しさを感じる。

 喧嘩嫌いは裏を返せば他人と争うほど譲れないもの・勝ち取りたいものが無いという意味でもあり、自分と違いそれを持っているグリムとエーデュースに、優也は頼もしさや憧れを抱いていた。

 しかし、彼らとの関係は一方的に助けられて勇気づけられるだけではなく、また少しずつでも着実に優也が精神的に成長しているのが示される。そんなところが大好きなシーンだ。

 

 それにしても、自分とリドルとは対照的に本心を言い合える後輩達を黙って見ていたトレイ先輩は、一体何を思ったのだろう。しんどい。

 さらにここで、「自らの意志で友達を作らずにいたが、エース・デュースと友達になっていく優也」と「親に友達を決められ、トレイ・チェーニャと友達でいたかったのに会うことすら禁止されたリドル」が対比になっている可能性に気づくともっとしんどく読めるので、しんどく読みたい人は是非試してみよう。しんどく読みたくない人は忘れて。

 

 

 そして、優也がNRCで養っていった勇気は、決闘でエースとデュースに圧勝して尚も二人に屈辱を味わわせるリドルを前に、ついに結実する。

 自分にはどちらが正しいのかわからないし、判断できる立場にあるとも思わない。ただやりたいことだけをやろう、言いたいことだけを言おうと。

 さらにクライマックスで、オーバーブロットしたリドルから逃げずに「本当に喧嘩が苦手だから、早く終わらせましょう」と言い放ち、戦おうとするエース達を一緒に止めてくれるだろうと思っていたケイトを驚かせるほど、雄剣とは別ベクトルの肝の据わり様を見せてくれた。

 

 

 要点だけ書き出すと、「友達のいなかった臆病な少年が、他のキャラクターと仲良くなって勇気を出せるようになり、力を合わせて危機を乗り越える」はちゃめちゃに王道感にあふれている

 

 ……などと思いきや、問題が解決した後に優也は、「喧嘩したくなさすぎて、逆に我が強すぎなんだよな」と初めて受けた評価に驚く。

 それならば、友達を作らなかったのも本当は自分の主義を曲げたくない気持ちを優先させたからで、自分は思っている以上に自己中心的なのでは?と考える優也。

 こうして、気弱でプライドも無い平和主義者と思われた彼にも、実はNRC生の素質があるかもとほのめかされる。

 これがツイステらしいところで、優也の変化は成長型主人公の王道のようでいて、NRCのヴィラン気質への適応であり、元々備わっていたのを表に出せるようになったとも読めるのだ。

 

 そしてそれが成立するのは、極度の喧嘩嫌いという優也のスタンスを「改めるべき欠点」として扱わず、むしろ恐ろしい相手・状況を前にしても貫ける形で成長して、「ゲーム版のキャラクターに色々な信念があるのと同じで、喧嘩嫌いは黒木優也というキャラクターの信念だから変えなくてもいい。貫いていい」としたからだ。

 正義のためではないし、エースとデュースのためではあったけど、今まで自覚がなかっただけでそれが彼の信念だから。だから、優也は「喧嘩は止めよう」と言った。あまりにも好き過ぎる落とし所だ。

 なので、別に優也はゲームの監督生のたまに容赦ない一言や、雄剣の超弩級の胆力を得る必要もないと思う。そうでないのが「黒木優也」なのだから。2章以降ああなっていくならそれもそれで面白いが

 

 それと、最後まで読んでみて思ったのは、「優也って、人間関係を避けてきた割にはすごく『他者を理解する力』があるよな」だ。

 まあ、「他のキャラも描写する地の文が、基本的に優也視点だから」というメタ的な事情もあるのだろうが……。

 それでも、リドルに堂々と反逆できるエースとデュースをまぶしく感じる一方、思うところありつつも従っていたトレイとケイトの心情にも寄り添える優也からは、「気が弱くて繊細で人と接するのが苦手な子」で済ませられないほどの、彼なりの強さと人間としての大きさを見出せる。

 前述の通り、譲れない・勝ち取りたいこだわりを持たない分、喧嘩にさえならなければ特に他者の考えを否定しない、かといって単純に肯定もしないのかもしれない。捉えようによっては結構柔軟ではないだろうか?

 確かに気弱ではあるが、他人に依存せず自分のスタンスを確立できているところも忘れずにおきたい。

 

 

 さて、本来は他にもゲームから補完された箇所や文章表現の魅力などを書くつもりだったが、優也の内面の話だけで長くなってしまったので(更新もかなり遅れてしまったので…)、ノベライズ版の感想は一旦ここで区切る。

 後の話はまた次回。コミカライズ版2巻の感想も合わせて「三回連続ツイステ祭り」になるかもしれませんが、よければお付き合いください。