わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

【ネタバレ注意】『FILM RED』二つの世界をつないだウタの鳴り止まぬ歌

 公開前後、「何かすごい現象が起きてるな」とは感じていた。

 音楽チャートを席関するウタの歌。

 

 私がまだ5〜6歳の頃から追ってきた『ONE PIECE』において、原作にはほぼ登場しないキャラクターが、我々の世界に巨大な波を起こしている。

 Adoさんの人気もあるのだろうが、「これまでの劇場版とは全く違うことが起きてる」と鑑賞前から強く思わされた。

 

 思わされたが、「でもストーリーの方は(良い意味で)ほぼいつも通りなんだよね」などと甘い考えに浸っていた。

 今になってふり返ってみると本当に甘い、甘すぎる……。

 

 そして鑑賞後、つくづく「やられた!」「とにかくやられた」「私は尾田先生とスタッフの方々の手のひらの上だった!」と強い衝撃を噛みしめた。

 

【注意!!この先、『FILM RED』の結末の最も重要なネタバレをはっきり書いています。できれば鑑賞後に読んでくださるようお願いいたします!!】

 

 「ウタは今回の敵キャラに利用されており、その敵とルフィが激突するのだろう」と思っていたのに、実際見て仰天した人は私以外にも多くいるに違いない。

 ウタ当人こそが本作の敵であり、善意と視野の狭さで世界を終わらせようとする心優しいエゴイストだったのだ。

(きつい書き方に受け取られてしまうかもしれないが、私はそういうところもひっくるめてウタが好きだ)

 

(というかワンピほどの人気漫画が主人公の幼なじみで重要キャラの子供という設定引っ提げて原作者完全協力でこういうオリジナルキャラぶちこんでくるの最高だし、結果ワンピ追ってなかった人にまで波及するヒット作になってんのめちゃアツいぜ!!としか言いようがない)

 

 あとゴードンさん、ビジュアルとCVツダケンが発表された時は絶対敵だと決めつけてたけど、めちゃめちゃいい人だった。申し訳ありませんでした…。

 

 前作『STAMPEDE』を観に行った時、あまりに楽しすぎて私は、劇場版『ONE PIECE』の…引いては、ジャンプ原作バトルアニメのオリジナルストーリーによる劇場版の「最高到達点」を見てしまったとすら感じた。

 だからこその変化球なのだろう。前面に押されていたウタのイメージが「明るいゲストヒロイン」だったのもあるが、「劇場版ワンピってこうだよね」という感覚をつちかっていればいるほど、『RED』にはだまされる。

 

 だまされるといえば、映画冒頭で早速披露される「新時代」。パワフルな歌声、アッパーなメロディ、映像の楽しさ、ウタの愛らしさ。

新時代

新時代

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  • provided courtesy of iTunes

明るい曲だが、歌詞には「ジャマモノやなものなんて消して」「夢の中に居させて」といったワードが…

 

 作中の人々と同様、一気に心をつかまれて映画の世界に熱中する私。

 だが、それはまさしく、「新時代」を聴いてウタワールドに引きずりこまれた作中人物達とのリンクだったのだ。

 歌を聴くだけで夢の世界に入れられたとは気づけなかったルフィ達。映画の冒頭からそんな展開になっていたとは気づけなかった私。見事なオーバーラップだ。

 

 さっきまで仲良く再会を喜んでいたはずのルフィに怒り、「明るいゲストヒロイン」のイメージからズレ始めるウタ。

 劇場の観客と一体になってライブに熱中していたはずが、ウタの名を叫びながらルフィを追う作中の観客達。

 この、「一体感からの違和感」が前半最大のスリルだ。

 

 

 ラストもかなり衝撃的で、(明確な描写ではないが、おそらく)ウタは命を落としてしまう。

 これまでの劇場版の敵は、ルフィに吹っ飛ばされて終わりのパターンが多かったのに…。

 『Z』の老兵ゼファーなど例外もいるが、「ルフィの幼なじみ」で「シャンクスの娘」と主要キャラとの深い関係を持ち、その上まだ21歳の女の子の死。

 

 生き延びる選択も目の前に提示されつつ、最期までみんなを救うために歌うことを選んだウタ。哀しく、歪んでしまった部分もあったが、美しい生き様だった。

 歌は、彼女の生そのものだ。

 

 そして、最後の最後にスクリーンの中と外は再びリンクしていく。

 エンディングで描かれる、あらゆる場所でウタの歌を聴いている『ONE PIECE』世界の人々。

風のゆくえ

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 「風のゆくえ」の歌詞にある通り、ウタがいなくなっても彼女の歌は消えず、聴く者を笑顔にする。

 それは現実世界の我々にとっても同じだ。ウタの歌を聴くたびに、自分の中に彼女が戻ってくる気がする。辛い時、苦しい時には彼女がそばにいてくれる。

 ウタは、二つの世界に寄り添う歌姫となったのだ。

 

 ルフィもまた、トレードマークの麦わら帽子が、シャンクスだけでなくウタとの思い出も詰まったものになっただろう。

 父と娘から、作中の現実とウタワールドで二重に託された帽子。

 

 ブームはいつか必ず去る。だけどもう一度歌を聴けば、あの哀しいほどに優しく純粋だった彼女にまた会える。何年後、何十年後でも。

 そんな人が一人でもいる限り、きっと、ウタの歌は鳴り止まない。