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【劇場版コナン】『ハロウィンの花嫁』という遺された人間の物語

 

 今年の映画では久々に黒の組織が絡んでくるのですが、逆に言えばシンガポールの名所がぶっ壊れたり高速リニアが競技場に突っ込んだり渋谷がぶっ飛びそうになったりするのは組織と全く無関係なところで起きてるんですよね。

 …コナン世界、怖いな。「実はこの世界の犯罪率が高いのも組織の仕業で〜」みたいな設定が連載終盤で明かされたら面白いけど、まあ無いよね。

 

 今回は、昨年観に行った『ハロウィンの花嫁』の感想を書きます。

 

 

 本作のメインに抜擢された安室(降谷)さんと高木・佐藤刑事には共通点がある。いずれも、警察学校組に「遺された側」だ。

 プラーミャに家族を奪われたエレニカ達も「遺された側」。

 個人的には、エレニカの復讐を止めたコナンもまた、あの浅井成実を含め復讐に取り憑かれて殺人を犯した人間を見てきたことを思い出していたのかも…と解釈している。

 私は本作を「遺された人間の物語」として鑑賞し、それを感想記事のタイトルとした。

 ハロウィンは元々死者の魂が戻ってくる日だという。まさに、この物語にふさわしい舞台だった。

 

 「遺された側」の人々が、少年探偵団達と協力し、プラーミャが渋谷に起こそうとした惨劇の阻止に成功する。

 「逝ってしまった側」から正義を継承した者達の力で、つかみとれたハッピーエンドだ。

 

 そして、コナンの爆破阻止のアイディアは、昔通りすがりの萩原に助けてもらったから思いついたものと明かされる。

 萩原は、原作では白バイ隊員の姉が登場したが、アニメでは現時点だと存命のレギュラーキャラの中で接点を持つ相手が降谷しかいなかった。

 警察学校組とプラーミャとの接触の時点でも、彼はすでに亡くなっていた。そんな萩原が最後の最後に、本作の最大の貢献者だったと発覚する。実に綺麗な流れだと思った。

 

 警察学校編には登場しなかったコナン(新一)と蘭も、ちゃんと同じ世界の同じ時間に存在していて、わずかではあるが重要な関わりを持っていた描写がなされる。

 これぞ、私の見たかった本編と外伝のクロスオーバーだ。

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 コナンにとっては「名前も知らない、一度会っただけの萩原さんと似てる人」で、本人とまでは気づいていない。隣の降谷だけが真実を知っている。

 『ゼロの執行人』と対比すると面白い。あの時の二人は、対立して事件に迫っていき、最終的には協力し真実を共有しながらも、反対方向に去っていった。

 本作では終始協力して事件を追い、最後も並び立ちながらも、コナンにヒントを与えた恩人が萩原その人だと知るのは降谷だけだ。どちらの結末にも美しさを感じた。

 

 この時の空を仰ぐ降谷さんの顔は、様々な感情を抱いているように見えつつ、確かに微笑んでいて…。

 その表情で、「ああ、彼は大丈夫だ」と思えた。

 

 5人の友情は見ていてほほえましくも、やっぱり切なくなっちゃいますね……。この後、降谷さん以外は全員殉職する運命が待ってるんですから……。

「僕もそっち側がよかったよ…… 」

 これ、あくまで「教官を足止めする役より、一緒に掃除する方がよかった」という意味なのに、なんだか心臓がキュッとなってしまった……。

 『ゼロの日常』で降谷さんの夢に出てきた時の言葉、「早く来いよ!」なんだよな……

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 かつての私は不穏なことを考えていたが、降谷さんが生きているのは「あの頃の仲間達がいない世界」であると同時に、「仲間達に影響を受けた人間が、今を懸命に生きている世界」なのだ。

 松田の死で心に傷を負った佐藤刑事が、伊達と仲の良かった高木刑事と共に、正義と平和のために奔走し、愛を育んでいるように。

 

 降谷さんも独りではないと思える。

 「遺された側」が絶えない犯罪に立ち向かう姿こそが、「逝ってしまった側」からの素晴らしい遺産であり、彼らの存在した証。それが、この世界にはちゃんとあるから。

 『ハロウィンの花嫁』は、警察学校編の最高のエピローグでもあったと言えるだろう。

 

クロノスタシス

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