わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

ディズニー『シンデレラⅢ 戻された時計の針』がめちゃめちゃ良かった件

 某魔法学園スマホゲーのモチーフを履修するために「Disney +」に加入し、ディズニー作品を見ている私だが、当初の目的に関係なく純粋に楽しんでもいる。

 

 特に感銘を受けたのが、先週見た『シンデレラⅢ 戻された時計の針』だ。言わずと知れた『シンデレラ』の続編にあたるOVA

 

 シンデレラが王子と結ばれた後、継母のトレメイン夫人と義姉はフェアリーゴッドマザーの魔法の杖を手に入れ、時間を巻き戻して過去改変しようと目論む。

 つまりトレメイン卍リベンジャーズである(そうか?)。もうここだけでめちゃめちゃ面白いな…。

 

 これまで扱ってきた作品とはだいぶ毛色が違うが、まあ童話や有名アニメ映画の派生作ということで。

 

 本作は、とにかく魔法を悪用しまくるトレメイン夫人の強敵ぶりがすごい。

 ガラスの靴の大きさを変え、王子の記憶を改ざんしてシンデレラを忘れさせ、代わりに義姉のアナスタシアを花嫁候補にのし上がらせる。

 さらにはシンデレラを邪悪なデザインのカボチャの馬車に閉じこめ、王子との結婚式から追い出そうとするなど、まさしく「悪のフェアリーゴッドマザー」だ。

 

 だが、シンデレラもあきらめない。大胆に、時にはしたたかに、事態を打開するため行動を続ける。

 どうにか邪悪な馬車から脱出した直後、馬に騎乗した姿で崖から城を臨み、友達のネズミから「これからどうするの?」と尋ねられて「私の結婚式に出るわ」と答えるシーンは最高にカッコイイ。

 シンデレラはただ幸運だっただけではなく、継母の悪意に負けずに希望を信じて何度でも立ち上がる強さを持った人だから幸せをつかみ取ったのだと、しみじみ感じられる。

 

 本作では王子も人間味があって親しみやすい面を見せてくれる。

 父王とフェンシングをしながら話す場面では、「両親と同じように、『手を触れただけでそうとわかる運命の相手』に出会うことにずっと憧れていた」と語られ、一晩踊っただけの仲のシンデレラと結婚したのも、彼なりの哲学があったためとわかる。

 キャラが動き回る映像の面白さもあり、親子の関係性や王妃との思い出もうかがえ、とても好きなシーンだ。

 

 

 そして、アナスタシア。私は、彼女こそがもう一人の主人公だと思っている。

 また、前回書いた『おしゃれなカラス』はカラスに救いのある結末になってほしかった…という幼い頃の気持ちが、浄化してもらえたように感じたキャラクターでもある。

 

hijikidays2.hatenablog.com

 

 魔法でシンデレラの立ち位置に成り代わるアナスタシアだが、継母ともう一人の義姉ドルゼラとは違い、財でも権力でもなく愛を求めている。

 「私もシンデレラのように愛されたい」という切なる願いにつけこまれ、母に命令されるままシンデレラに変身し式に出る彼女は、痛々しく哀しい。

 いくら洗っても白くならない自分の羽に失望し、他者の羽で着飾ってしまう、おしゃれなカラスと同じようで。

 

 しかし、王子をだましたまま愛の誓いを口にすれば結婚成立というところで、アナスタシアは自らそれを拒絶。本当に欲しいのは、他者を借りて得る偽物の愛ではなく、ありのままの自分への愛だと悟ったのだ。

 

 先日書いた通り、今の大人の私がカラスにしてあげたいのは「でも、お前頑張ったじゃん」と伝えることだ。

 しかし、初めて読んだあの頃の私が、本当に望んだ結末はなんだったか…それはきっと、本作のアナスタシアを通して描かれたものだ。

 

 そう、後に「カラスがありのままの自分を見せていれば~」と締められているバージョンがあると知っても納得しきれなかったのは、他の方の「でも神様は他人の羽で着飾ったカラスを選んだだろ」というツッコミだけが理由ではない。

 作中の世界にいるカラスに怒った鳥達や、偽りの美しさに惑わされた愚かな神、そしてカラス自身も、誰もありのままを肯定してなどいなかったからだ。

(前回は「子供時代の私だったらそれで納得したかもしれない」と書いたが、やっぱり引っかかり続けていたかも…?)

 

 しかし、アナスタシアはどうであろう。

 シンデレラは、魔法の悪用を放棄した彼女に心から感謝する。

 さらに、自分を未来の娘と信じて妃との思い出の品をくれた王に、アナスタシアは「私には持っている資格がないから」とそれを返そうとするが、王は再び彼女に優しく握らせてこう説くのだ。

 「真実の愛を手に入れる資格は、誰にでもある」と。

 

 なお、アナスタシアは前作『Ⅱ』でパン屋の青年と結ばれているが、本作では終始恋人がいないと思しき言動をしている。時系列が逆なのか、時間の巻き戻しによって世界が分岐したのか。

 だが、本作のエンディングでもパン屋の青年と仲を深めているワンカットが出てくるため、どちらにせよその後のアナスタシアは彼と真実の愛をはぐくみ、シンデレラに負けないくらい幸せになるのだろう。

 

 これが『おしゃれなカラス』だったら……自身の過ちを知ったカラスに、神様が「真実の美しさを手に入れる資格は誰にでもある」と説き、いつかありのままの黒い羽を見て「きみは素敵だ!」と言ってくれる相手が現れる。

 大人から見れば都合がいいかもしれない。だがきっと、幼い私はそんな結末を求めていたのだ。

 

 もし時計の針を戻せるなら、『おしゃれなカラス』を初めて読んだ頃の私に、『シンデレラⅢ』を見せに行きたい。そんな風に思わせてくれる、美しい物語だった。