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【コナン】『ゼロの推理劇』の安室透の美しさマシマシ超速ジェットコースターぶり

 物心ついた頃から『名探偵コナン』のアニメを視聴していたものの、劇場版を映画館に観に行ったのは『ゼロの執行人』が初めてだったのだが、その結果私も安室の女になってしまった。

 一応アニメの登場回は見ているものの、安室さんのファンとしてにわかの私は、とりあえず登場回を児童向けに小説化した『名探偵コナン 安室透セレクション ゼロの推理劇〈ミステリー〉』(著・酒井匙)を購入。
 読んでみると、安室さんの美貌をあますことなく表現する文章のオンパレードで感動すら覚えた。正直この人の文の書き方、かなり自分好みかもしれない。

 だが、その一方でエピソードの構成のとんでもない偏りには驚愕した……。

 

 ちょっとツイッターで180字以内では感想を書きにくく、せっかくなのでこの場で公開しておく。

 

  ……さて、本題に入る前に、実は今回の記事は、ブログ設立前の2018年(『ゼロの執行人』の公開年)に途中まで書いて保存したっきり、世に出していなかった感想をこの機に完成させたものである。このまま腐らせておくのももったいなかったので……。

 

驚異の安室透の美貌の描写について

 収録一話目は、安室さんが初登場した「ウエディングイブ」(本当はもっと前のエピソードに赤井に変装した姿で登場してるとか、そのへんは一度おいとく)。

 最初はやぼったい眼鏡をかけ、ドジなウエイターをよそおって登場するのだが、しょっぱなからもうすごい。

 あわあわと謝るウエイターの男は、分厚い眼鏡をかけているせいか目元がよく見えないが、それでもはっきりとわかるほど、整った顔立ちをしていた。すっと通った鼻筋に、褐色の肌。明るい色の髪は、いずれの毛先も、顔を包み込むようにくるんと内向きにカーブしている。すらりとした体型に、ギャルソン風の制服がよく似合っていた。

 
 見てくださいよコレ。初登場からフルスロットル。本の中では4行なんですが、4行であらゆる表現を駆使して彼の容姿をほめたたえてるの本当にすごいですね。どんなに読解力がなくても彼がいかに美しいのかは絶対に理解できるレベル。

 特にすごいのは「くるんと」の部分ですよ。だって「くるんと」を削っても意味は伝わるでしょ?安室さんの髪が内向きにカーブしてるのはわかるでしょ?でもわざわざその四文字を入れる。

 顔を包み込むようにくるんと内向きにカーブしている安室さんの髪。可愛すぎる。あざとい…萌えキャラか何かかな??(29歳男性なんだよなあ)

 

 そしてドジで気弱な男を演じている様子を「あわあわと」なんて書いてるのも最高に良い。その直後にも「あたふたと戻っていく」なんてダメ押ししてくる。良すぎる。

 眼鏡を外し素顔を明かした場面でも、「眼鏡をかけていた時以上にイケメン」「少し垂れた目じりは精悍で凛々しく、まなざしは覇気に満ちている」などと、全く自重する様子がない。タレ目に言及するあたり、わかってやがる。

 その後も、安室が何か言うたびに「形のいい眉をひそめた」「挑発的に目を細めて」「困惑に瞳を揺らして」「苦しげに目を閉じた」と、地の文でイケメンぶりをアピールすることに一切余念がない酒井匙先生。


 他、「ウエディングイブ」には安室が殴りかかってきた容疑者をサッと避けてコナンを驚かせるも、直後に「や、やめてください暴力は…(><)毛利さん、彼の足をおさえて!また殴りかかってこられたら……(><)(><)」と気弱な素振りを見せるシーンがある。

 犯人を腹パンで一発KOしたり観覧車の上でシャアとなぐりあい宇宙したり盗聴器を指で潰したりフロントガラスを素手でぶん殴って割ったりする彼を見た後だと、白々しいことこの上ないのだが、小説では「いかにもなよっとした仕草」なんて書かれているのが面白い。いかにもなよっとした仕草!!!


 最後にはポアロのエプロン姿を「いかにもさわやかな好青年」(「いかにも」また出ました)、小五郎を先生と慕う様子を「無邪気な笑顔で敬礼をする」なんて妙に可愛く書かれて終わっている。

 そんな安室に「イヤな予感を抱かずにはいられない、江戸川コナンだった」で締められるのが可笑しい。事件だけ見れば鬱回だというのに。

 


 続くミステリートレイン編でも、登場するなり「さわやかにうなずいた」と書かれ(「さわやか」二回目)、園子にイケメン認定されるところではばっちり「端正な顔立ち」なんて評されている。

 この時のファッションについて、「ブローチタイが首元に輝いている」と書かれているが、そりゃブローチタイの方も安室透につけてもらったら輝かずにはいられないだろう。「涼しげな声が響く」と古谷徹さんへの賛辞も忘れない。

 

 そして緋色シリーズでは、これまでとは違う赤井さんへの敵意をむき出しにしたり、見事出し抜かれて焦ったりする姿も描写されている。

 沖矢さんに顔のマスクを外せと言ったら風邪用マスクを外してすっとぼけられたので、「いまいましげに声を荒げる」安室さん。チョーカー型変声機をつけていなかったので、「唖然として立ち尽くした」安室さん。そして電話鳴ってますけど…と言われて、「のろのろと手を伸ばす」安室さん。

 赤井さんの声を聞いただけで「表情がこれ以上ないほど苦々しげになる」安室さん。赤井さんの方は「どこか楽しげに」とか書いてあるのに。うーん、余裕のない安室さん(降谷さんと呼ぶべきか?)も好きだ。

 

 この緋色シリーズが最後なので、本書はポアロに来て「ウソつき…」と言うコナンくんに、「君に言われたくはないさ…」とやんわりと微笑む安室さんで終わっている。

 


驚異のエピソード構成について

 さて、冒頭で「エピソードの構成のとんでもない偏りには驚愕した」と書いたが、具体的に説明しよう。

 ウエディングイブに50ページ、ミステリートレインに90ページ、緋色シリーズ42ページである。

 アニメではウエディングイブは通常通り前後編、ミステリートレインは四話構成なのに、五話も使った緋色シリーズが一番短い42ページである。

 

 ……えっ……?

 

 そのため緋色冒頭ではミステリートレインの後もコナンの身近に現れ続けたこと、赤井の死の真相を探っていること、その謎の多い行動からコナンは安室の正体を推理しつつも危機感を抱いていることが説明されているが、その尺は3ページにも満たず、いきなり総集編のノベライズになったかのよう。

 

 さらに、ジョディの友人が遭った事件の話は、赤井の生存トリックと安室の正体に関わるわずかな要素だけを残して全カット。

 描かれているのは公安とFBIのカーチェイス、安室が生存していた赤井の正体と確信した沖矢を追いつめようとするも、本物の赤井はFBIの車におり…という後半のくだりのみ。と緋色シリーズだけがかなり慌ただしい構成になってしまっている。

 なお、その後工藤家でジョディとキャメルに種明かしをし、少年探偵団が来るくだり、安室(バーボン)とベルモットの彼女の秘密とスコッチについての会話、そしてラムの話もない。

 

 一方で、一番尺を使っているミストレの方は比較的序盤から小説化されているため、本書のメインである安室が登場するまで結構読み進めないといけない。

 それ自体は別にいいのだが、緋色と比較すると非常にアンバランスに感じてしまう。構成ミスでは…?

 

 あと、「赤と黒のクラッシュ」と米花百貨店の爆弾事件のエピソードを未履修であれば、赤井が缶コーヒーを落としたとか、沖矢昴がジョディに赤井の口癖を言ってたとか、知らない伏線が回収されていくのを読むことになるのだが……。

 まあこれは長期作品の宿命というか、「〇年前にコナン読む/見るのやめちゃったな〜、とりあえず重要な話とか安室さんや赤井さんの話は履修してみようかな〜」という人が、原作とアニメで緋色に触れてもこうなることだろう。というか私がまさにそれだった。

 未履修の人でもわかるように説明はしてあるので、これはそこまで気にすることでもないか。

 

 米花百貨店のエピソードを今見ると、「実は生きていた赤井」はバーボン、「謎の組織の幹部・バーボンの正体」は沖矢昴とミスリードする気満々で面白い

 

 ともあれ、緋色シリーズの高速消化ぶりさえ気にならないのであれば、手っ取り早く安室透の重要エピソードを読んでおきたい人にオススメではある。