わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

【榊原版タイバニ】誰かの世界を変えるのは完璧じゃないあなたかもしれない

 来月、11年越しの続編が配信開始される大ヒットアニメ『TIGER&BUNNY』。

 

 私にとってはもう一つ嬉しいニュースが舞いこんできた。榊原瑞紀先生によるコミカライズ版も続編の連載が決まり、前作の新装版も発売されるというのだ。

 人気作だけあってタイバニのコミカライズは異なる作家により複数展開されているので、ここでは本作を「榊原版」と呼称する。

 

 

 前作はアニメ版ジェイク編までのコミカライズなのだが、ストーリーは中盤から大幅にアレンジされている。

 アニメでのヒーローが一人一人ジェイクに挑んでいく展開の代わりに、それぞれの陣営に分かれてシュテルンビルト崩壊阻止のため奮闘するストーリーだ。

(ところでそのアレンジで潜入することになったおかげでバーナビーの変装姿が見られるのですが、髪結んでるわ眼鏡も大きいやつに替えてるわで最高としか言えないほど最高なんでバニクラはみてみんなみて)

 桂正和先生とはまた違うスタイリッシュさとクールさを感じさせる絵のアクションと共に、知っているが知らないストーリーを楽しめる。これぞ、「わくわく公式派生作」だ。

 

 

 アレンジの主軸となっているのが、NEXTと非NEXTの対立だ。

 ルナティックの暗躍によって市民のNEXTへの不信感が増した直後に、ジェイクの「NEXTだけの国を作る」宣言。

 そして、本作の彼は自分に賛同する協力者を市民から募り、元々社会からの扱いに不満を持っていたNEXT達はジェイクに下ってしまう。

 さらに「街の破壊と引き換えに、反NEXT派の人間を処刑する」と告げ、親しくしていた隣人に我が身可愛さから差し出される反NEXT派という恐ろしい光景が挟まれる。

 

 だが、そんな状況でも虎徹/ワイルドタイガーは訴え続ける。「自分達の力は人を助けるためにあるんだ」と。

 

 榊原版のオリジナル要素の中でも特にMVPをあげたいのが、オリジナルキャラクター「体の色が変わるだけのNEXT能力者のおじさん」

 名前すら出ないし、特殊能力者だがほとんど一般人と変わらない。なのにNEXTというだけで理不尽な扱いを受けたことから、彼はジェイクの誘いに乗ってしまう。

 しかし、ジェイクはただ破壊と殺戮を愉しんでいるだけで、自分達が報われる社会など作られないと気づく。そこで、潜入した虎徹・バーナビーと出会い、二人に協力する。

 

 私は、このキャラは現実で少なからず理不尽さを感じたことのある読者と、虎徹をつなぐ存在のように感じている。

 社会に出てみて年月が過ぎると気づいた。「虎徹さんってすげえな。自分が会社の都合に振り回されて、周囲に侮られてるのに、悩んでる相手がいたら声をかけて、ウザがられても損してもめげないで、他人に手を差しのべ続けるなんて私には絶対できないだろうな」って。

 だから、私は体の色が変わるおじさんの側だろうな、と思う。

 

俺さ…ちょっと夢見たんだよ

 

マルチネスを見た時、もしかしたら、NEXTに生まれてよかったって思えるかもしれないって

 虎徹に明かした彼の胸中。その気持ちが痛いほどにわかる。

 

 そんな「俺の力はヒーローと違って…」と話す彼にも、虎徹は相棒や仲間達に対するのと同じように向き合い、語りかける。

それでも、その力は誰かの為にある

俺達は誰かの為に使える、素晴らしい力を持って生まれて来たんだ

 

普通の人だって、出来る事を誰かの為にしてる

俺達も出来る事をやる、一緒だよ

 

お前には、お前にしか出来ない事がきっとある

 

きっと、わかってもらえる

 このシーンで、虎徹のヒーローとしての熱い信念が、体の色が変わるおじさんを介して自分に届いた気がした。

 

 

 他にも、ジェイクの少年時代、イワン/折紙サイクロンとエドワードの共闘、意外な敵と再戦するキース/スカイハイと彼へのサポートが光るネイサン/ファイヤーエンブレム、パオリン/ドラゴンキッドを励ますカリーナ/ブルーローズ、そして「ここは俺に任せて先に行け!!」をかっこよく決める(※生きてます)アントニオ/ロックバイソンと、榊原版独自の見所が目白押し。

 

 私が大好きなのは、虎徹に「なんで悪い奴を殺さないの?」と聞いてきた少年が再登場するオリジナルシーンだ。

 ジェイクとの決戦に向かう虎徹とバーナビーのために道を空け、エールを送る市民達。

 だが、「マルチネスを殺せ!!」と過激な言葉も聞こえ始め、バーナビーに「ジェイクを殺す気なら相棒として止める」と伝えたこともあり、悪人には生きて償わせる矜持を持つ虎徹は内心穏やかではない。

 そこに現れたのがあの少年だった。

タイガー!!マルチネス捕まえて!!

 あの時、少年は「殺したらダメだ」と説いた虎徹に悪態をついて去っていったが、想いはちゃんと届いていたのである。

 そんな少年に笑顔とサムズアップで応える虎徹。もう最高に「ヒーローしてる」シーンだ。

 

 最終決戦ではなんと、あのキャラがバディとジェイクの戦いに乱入。その舞台は銀行。幼い頃の虎徹がMr.レジェンドに希望を与えられ、ヒーローを志した場所だ。

 やはり、ずっと追ってきた両親の仇に敵わず、悔しさから涙を流すバーナビーが虎徹に支えられるところは、もちろんアニメ版も大好きなのだが榊原版も何度も読み返してしまう。

 

 さて、決着がどうなるのかは「キミの目で確かめてくれ!」としておくが、ジェイクの事件後もヒーロー達の仕事は終わらない。

 第一話同様、犯罪者を追うもいまいち決まらない虎徹。他のヒーローを応援しつつ、「ワイルドタイガーはやっぱ駄目だな」と言う人々。

 しかし、体の色が変わるおじさんが叫ぶ。「タイガーがんばれ!」

 

 不器用でおっちょこちょいで、新人の相棒にお姫様抱っこで助けられる完璧じゃない虎徹さんだけど、彼の見ている世界を変えた。

 体の色が変わるおじさんを、ジェイクやクリームとは別の道へ導いたのだ。

 

 イワンの活躍を聞いて、留置所で一人ガッツポーズするエドワード。

 心境に変化が現れ始めたらしい、カリーナとパオリンに助けられた反NEXT活動家。

 虎徹が他のヒーローに与えた影響が、また別の人に伝わっていく。

 一話目との対比でそれを見せてくれる締め方、あまりにも美しい。

 

 

 アニメも榊原版も(そして吉田恵里香先生・上田宏先生によるもう一つのコミカライズも)、『2』では何を見せてくれるのだろう。ヒーロー達のファンとして待っていたい。

 

 

おまけ。

 吉田・上田版コミカライズは、(大変お恥ずかしながら単行本はまだ一巻しか所持していないのだが…)アニメの幕間を描いた短編集となっている。こっちも面白いよ。

 

 

(ところでダブデカもよろしくです)