2月26日、漫画版『おそ松さん』の最終巻が発売された。紙版の第一巻が発売したのは2016年5月。アニメ一期終了後からの付き合いだった。
「おそ松さんの漫画版ってどういうこと?あれは赤塚不二夫先生の漫画『おそ松くん』が原作のアニメでしょ?」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、アニメの『おそ松さん』を漫画化したのがこれです。……説明になってなかったらごめん。
要するに赤塚先生のおそ松くん→アニメおそ松さん→漫画おそ松さんの順で世に生まれている。なお、漫画化といってもストーリーは全て一話完結型のオリジナルだ。
これまで愛読してきた割には長文で語る機会がなかったので、完結を機に布教記事を書くことにした。
- 面白い所その一…アニメに負けないほどエピソードのバリエーションが広い
ニートの6つ子の話を基本としつつ、パラレル設定の回・F6回・じょし松回も入っているため非常にバラエティ豊かで、この節操がないほどの手数の多さこそまさに『おそ松さん』らしい。
- 面白い所その二…尺が短い分だけテンポが良い。
なので開始二ページでゾンビにされたチョロ松が出てきたりする。*1
さくさく進むし、一話一話が気楽に読める。このへんもアニメ版と近い感覚で見れるかもしれない。
- 面白い所その三…これまたアニメに負けないほど、強烈なセリフ揃い
「十四松の骨好きなとこ抜いていいから」
「今の病院はお見舞の生花を禁止しているところがあるからオレ自身が花になった」
(「なんであいつ生まれて来たんだよ」と暴言を吐かれて)「たぶんお前らをいつか殺すためだと思うよ」
「お前の吐く二酸化炭素が地球温暖化に最もひびく…」(案の定カラ松に対して)
「記憶力がアレなの…?」
「かわいいボクがかわいいパンダになったら世界が滅亡するくらいかわいいものが生まれちゃう予感ー」
話の流れ的にまったく重要じゃない台詞でも妙に印象に残る。
- 面白い所その四…内容と可愛いトーンとの落差
少女漫画誌掲載ということもあってか、フワフワしてたりキラキラしてたりする可愛らしいトーンが多く使われている。
ただ漫画版松は下ネタこそ控えめになっているが、モテない成人無職が主役のブラックジョークなのはアニメと変わらないので、トーンと内容とのギャップがすごい。だがそこが面白い。ポップなお花のトーンに囲まれた六つ子は漫画でしか見られない。
ちなみに一巻の初期は松代が息子全員ニートなのを嘆いていたり、6つ子がトト子を好いてはいるが遠慮なく毒を吐いたりしていた(連載が始まったのは第一期が二クール目に入った頃で、原稿の完成はもっと前のはずなので、恐らく時期による都合と思われる)。6つ子の作画もアニメとはだいぶ違う印象だったが、二~三巻あたりでアニメに寄せた描き方が定着している。
そんな漫画版全十巻の中から、特に好きな回を厳選して紹介したい。
- 俺を敬え!6つ子と松造のチャンネル争奪戦!(一巻収録)
先の解説で一巻をネガキャンしてしまった気がするので(いや、あくまでアニメとの相違点を挙げただけで、私は好きなのだが)、まずは一巻から好きなエピソードを一つ。
サブタイトルの通り、松造がメインで父の日の話。冒頭でも書いたが一巻が発売されたのはアニメ一期が終わって数ヶ月後、つまり松造父さんがまだアニメでメインを張ることもなく、松代母さんと比べても存在感が大きくなかった頃に書かれたことに、当時の自分は感動すら覚えたものである。
ダラダラとテレビを見ている息子達を「父の日なんだから父さんを敬え」と叱ったことから始まり、通勤電車の席争奪術・圧で相手を黙らせる(というより吹き飛ばしている)土下座・同期の出世を心を無にして見送る技*2など長年のサラリーマン生活でつちかった数々の術で6人と渡り合う父。途中からチャンネル争奪は関係なくなってるけど。
母「さすがクズ遺伝子の大本なだけあるわねあなた!」
そんな父が6つ子が生まれた時に言っていた事とは……?
- じょし松さんのクリスマス(三巻収録)
クリスマスの夜、意気揚々と出張に向かうおそ子。この日に予定を入れようと思えば全然入れられたけど仕事じゃしょうがない……と思っていたら突然出張は延期に。だが、カップルが街を行き交うクリスマスに自分は家で独りなんてイヤすぎる…!
すると、それぞれ予定を入れていたはずの五人も交通マヒ・合コンメンバーが全員インフルエンザ・人面魚が産卵してツアー中止・ジムが燃えた・彼氏とデートと思っていたら貢げるだけ貢がせられて捨てられたと全員集まってくる。
こうなったら友達同士でクリスマスを乗り越えてやる!と色々な場所へ向かうが、カラオケ店のマイクの頭が全てミカンとすり替えられて営業中止・まつ毛からツメが生えてきてネイルサロン休業など、あまりにムチャクチャな理由で奪われる予定。でも帰ったら負けを認めることになる!最後に彼女達がたどりつくのは!?
↑後に三期とまさかのネタ被りを起こしたが、また違ったアプローチで笑える「バーテンダーカラ松」も収録
- カラ松 on the top(五巻収録)
一言で言うならカラ松回(わかると思うけど)。まず一粒一粒が自分の顔をしているブドウ柄のパンツを身にまとうカラ松から始まり、パワーアップしたカラ松のファッションで目に大ダメージを受け「嫌だぁぁ今世最後の目の記憶がコレだなんてー」と叫びながらのたうち回るトド松、ついに小林幸子さんのステージ衣装のような何かにまで進化を遂げたカラ松をチェーンソーで倒しにかかる一松と、インパクトに満ち満ちたコマが次々やってくる。
なんと有名な芸能プロデューサーにスカウトされていたカラ松。兄弟も詐欺じゃないならと協力するが、カラ松は初コンサートの日に高熱を出してしまう。兄弟はカラ松になりすまして切り抜けようとするが…
↑トト子に衝撃の転機が訪れる「トト子の結婚」、とにかく十四松というジャンルが全開の「十四松だとこうなる」も収録
- トド松の願い事(六巻収録)
トド松が居間に降りると、兄達に混ざって謎の子供が。最初は邪険にしていたが、文句を言いつつ世話を焼くようになるトド松。もうこの時点ですでにほのぼのする。
「弟ができたみたいでよかったな」
「そんなんじゃないし ボクは一番かわいがられる末っ子ポジションに満足してるんだから いらないよ弟なんて」
実は、子供は自分がやつれていく代わりに相手の願いを叶える不思議な力を持っていた。兄達はこぞって願いを叶えてもらおうとするが、その時トド松は……。
トド松の100%ドライモンスターだが120%のフリーズドライにはなりきれない面が描かれた回で、ラストが大好き。故に大好きなのにネタバレ防止のため他のエピソードと比べて好きなところをあまり書けない。漫画版最高のほっこり回と名高い(私の中で)エピソードだ。
↑正月のすごろくのせいでF6の財閥が破綻する中、大ピンチの彼らに託された想いをトト子が遂げるという熱いクライマックスを誇る「新春F6すごろく」も収録
- 6つ子のスマートスピーカー(七巻収録)
「もしも〇松が●●だったら」というパラレル設定を一人ずつ描くパターンのショートストーリー集。サブタイトル通りこの話ではスマートスピーカー。人型ですらねえ
しかし、言うだけで要望に応えてくれるはずのスマートスピーカーも、もちろん彼らになればそろいもそろってポンコツと化す。スピーカーの所持者も6つ子の誰かの顔をした二児の母や学生なのだが、若いOLのトド松?に競馬の情報しか提供しないオソマツ、疲れたサラリーマンのカラ松?に卑屈すぎて逆に気を遣われるイチマツなど、残念なスピーカーが目白押しに……。スマートスピーカーがスマートスピーカーの姿のまま赤面する描写は他じゃなかなか見られない。かも。
↑「一松の里見八犬伝」もかなり好きな話
- 遺跡の呪い(?)(八巻収録)
考古学者のチョロ松は師匠・おそ松博士が遺跡で大発見をしたと聞いてやってくる。だが、発掘された像はカツラを脱いだ十四松、おしりを出した十四松などふざけたものばかり。なのに博士は至って真剣!さらに、チョロ松にしか見えない妖精十四松が淡々としょうもない真相を暴露する。
「このふくらみ(おしり)が天への憧れを表していて…」
「ちがうよ それはぼくがおしり出してるところだよ」「天への憧れって何 笑える」
(博士ーー!)
残酷なまでに浮き彫りになる博士の空回りぶり。チョロ松は師匠の手前、必死に笑いをこらえるしかない……。
そして唐突に十四松から告げられる「ちなみにここで大声で笑うと、超巨大爆発起きるから気をつけて!みんな死ぬよ」という衝撃の情報!「五分後、後半戦行くよー」いや後半戦ってなんだよ!バラエティ番組のノリじゃん!果たしてチョロ松は笑ってはいけない遺跡発掘24時を生き残れるか!?
↑連載移籍の暗喩を上手く使った「宇宙規模でクズ」も収録
- おわりに
今回紹介するエピソードは6つ子だけに六つに絞ることにしたのだが、本当は書けども書けども尽きなかった。結局は同じ単行本に収録されている別のエピソードも少しだけ紹介してしまったが、それでもあれの話もこれの話もできてない…!という気持ちでいる。
そして、今後シタラ先生の漫画版が読めない寂しさを、改めて深く実感してしまった……。
松ロス中も、放送中も、漫画版がそこにいた。仕事や他のことで落ちこんだ時、いつも笑わせてなごませてくれた。それはこれからも、単行本十冊を持っている限り変わらないだろう。
シタラ先生、お疲れ様でした。ありがとうございました!!
……と思ったらファンクラブのサイトで新作を連載中のようです。
(有料の会員にならないと読めないよ!)
ギャグ漫画らしいオチだね!(おわり)