わくわく公式派生作オタク

「原作では見られないオリジナルストーリー!」にわくわくが止まらない異端のオタク

【小説版鬼滅一巻】過酷な世界にささやかな日常が咲く短編集

 春に「刀鍛冶の里編」のアニメ放送を控え、過去回と新作を併せた劇場公開版もヒットするなど、相変わらず人気の高い『鬼滅の刃』。

 

 今回はそのオリジナルストーリーを描いたノベライズ一作目『しあわせの花』のレビューだ。

『キメツ学園』のエピソードも収録されていることを示す表紙。まあイラストみたいに本編軸と学園軸のキャラ同士の共演はないんだけど。ところで本編逸のポーズなに??

 ネタバレと、ちょっと炭カナの話ありまーす。

 

 読んだら徹頭徹尾ほのぼの回とギャグ回だけで構成されているので、正直驚いた。良い意味で、もしアニメが深夜以外の枠で一年以上放送してた場合にやってそうな単発のオリジナル回の味わいがあるというか。

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 小説オリジナルキャラの結構強い鬼と戦う、みたいな思いっきりバトル中心の話はない。

 一応、炭治郎と出会う前の善逸が鬼を倒すエピソードもあるのだが、まあ彼の戦闘能力の性質上、本人が気づかないままほぼ描写もされず一瞬で終わりである。

 『呪術廻戦』だと一巻目からバトル要素が入っていたので、結構意外だった。

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 一話目は炭治郎の優しさと純粋さが表れた、幸せな花嫁になれると言い伝えのある花を、禰󠄀豆子のために夜中一人で探しに行くエピソードだ。

 しかし、いなくなった自分を心配してくれた禰󠄀豆子を通して、妹もまた自分の幸せを願っていることを知る。

 前述の通り、バトルはないのだが(鬼に出くわしてしまうのかと思ったが、そんなことはなかったぜ!イノシシだったぜ!)、互いに相手の幸せを願う兄妹の美しい心と尊い愛情を感じられるいい話だった。

 そして、花嫁に憧れる小さい女の子とそのお姉さんもかわいい。イノシシもかわいい。

 

 善逸はもういるだけで面白いことを書き手の方もわかっておられるので、小説なのにうるさい(褒め言葉)。

 絶叫したり早口でまくしたてたり、下野紘さんの声で脳内再生余裕である。もちろん、そうして読む場合はもっとうるさい(褒め言葉)。

 しかし、彼の真髄は普段のコメディリリーフっぷりとは裏腹に、いざという時は自分が恋愛小説における典型的な当て馬役になってでも他人の幸せを守る勇気と優しさだとも書き手の方はわかっておられるので、二話目のメインエピソードの善逸は本当に輝いている。たとえ女装は下手でも。

 

 三話目は「占い騒動顛末記」という題からも察せられるように、ドタバタギャグ回だ。好き。

 占い師に女難の相を予言される→そこら中の女の子が俺を好きになっちゃうに違いない!どうしよう!!そういえばあっちの子、俺を見てる…恋に落ちたんだ!とパニックになる善逸に、炭治郎が「すまない。善逸が何を言っているのかわからない」と悲しげに言うところが個人的にすごい解釈一致だ。

 そう、だいたいのジャンプ主人公なら「呆れながら」とか「苦笑いして」という表現と共にツッコミを入れそうなものだが、炭治郎は「悲しげに」なのだ。炭治郎、そういうとこある。と思う。

 

 他、伊之助に喫茶のメニューの字を一つ一つ教えてあげる時、「弟たちにしてやるように」と書いてある。非常に微笑ましいのだが、ご存知の通り禰豆子以外の弟と妹は亡くなっているので、切なくもある……。

(そして、「伊之助の『い』だな」と教えられて、「俺様の『い』か!!」とくり返す伊之助がかわいい)

 

 微笑ましいといえば、蝶屋敷に帰ってからのカナヲとの様子も良い。

 炭治郎がカナヲにおみやげのお菓子を手渡そうとすると、彼女は照れて引っ込んでしまう。しかし、当の炭治郎は「どうしたんだろう?」と思っていて、善逸から「何いい雰囲気になってんだよ」とツッコまれても「そんな怖い顔してどうしたんだ??」とまるでわかっていない。

 善逸が妬むのも納得のラブコメっぷりだ。かわ。

 伊之助も、三話目では一番冷静だったり、一話目でも炭治郎の採ってきた花の正体をすぐ見抜いたりと、普段の印象とはまた別の面も出ていて良かった。

 

 四話目はアオイとカナヲのエピソードで、炭治郎達が遊郭に潜入している間の二人を描いている。

 性格も立場も違う両者が、炭治郎の言葉に救われた者同士心が通じ合い、宇髄さんに連れて行かれそうになっていたのを止めてくれたカナヲへのお礼をアオイがついに言えたシーンは、非常に良い補完だ。

 

 どんなにささやかな幸せであっても、仲間の命を奪われかねない戦いの中に身を置く彼ら・彼女らにとって、一つ一つが特別なものなのだろう…原作の過酷さがあるからこそ、温かい読後感を味わえる小説版だ。

 

 

…などと学パロ「キメツ学園」の五話目を忘れて締めそうになってしまった。危ない。

 

 この学パロ、たった数行とはいえ、序盤の敵も同じ学校の生徒や教師になっている描写が結構新鮮に感じる。

 あと、今回の小説では本編軸の柱がしのぶさんくらいしか出てこない反面、キメツ学園の方で出番を与えられている(といっても、しのぶを含め三人だが)。

 

 煉獄さんは人気教師として登場。どれくらい人気かと言うと、「ずっと強く若々しいままでいてほしい…」と声が寄せられるくらい。

 弟のために弁当を考えている教師姿の煉獄さんの挿絵、好き。まあ料理はメチャクチャ下手なのだが。でもいいか…それもそれで。

 

 しのぶさんは美人の先輩で、その上フェンシングで優勝経験もあり、彼女も非常に人気が高いそうだ。無味無臭のお薬を作っている毒姫ともささやかれているが。学園にファンクラブとかある…?入っていい…?

 そんな感じで、個性的な生徒や教師とわちゃわちゃしつつ、善逸が義勇さんを怒らせず穏便に風紀委員を辞めようとする話だ。

 まあ、どうやっても義勇さんは善逸を殴るのだけれど。ひどいよお。

 

(´;ω;`)